経済人

経済やウェブやゲームなど、気になることを書いていくつもりです。

「性の喜びを知りやがって」おじさんを笑う人に「許さんぞ!」と言いたい

目次

「性の喜びを知りやがって」おじさんとは?
性の喜びおじさんの全文
性の喜びおじさんの問題提起
唐澤貴洋弁護士の事例
「性の喜びおじさん」や「唐澤貴洋」のような事件をなくすには
野獣先輩の事例
性の喜びおじさんとの向き合い方



インターネットの光と闇……。

大学時代は古典の経済文献を読み続け、それなりに保守的な企業に入り、あるキッカケで転職をすることになった私は、とあるウェブ系のメディアに雇われることになった。
当然、ネット系の文化を勉強する。インターネットの楽しさ、面白さ、嫌らしさ……様々な面に直面したが、もっとも醜悪だと思った事例が「晒し上げ」だ。

ワンクリック・ワンタッチの手続きですべてが完了するネット空間では、人々がそれという意識もなしに、集団リンチのようなものに加担してしまう。

最初、私は、そのような行為に怒りと絶望を感じた。しかし、見識を深めていくと同時に、それほど単純なことではないのだな、ということがわかってきた。

この記事では、現在巷で話題になっている「性の喜び(悦び)を知りやがっておじさん」について私が思うことを書いていきたい。

「性の喜び(悦び)を知りやがって」おじさんとは?

ここで論じるに当って、自分が動画を晒すのもどうかと思うのだが、こういうのは止められるものではないので、騒動に加担しているという自覚を持ちつつ、YouTubeにアップロードされている動画を貼りたい。



彼が性の喜びおじさんである。電車の中で一人でぶつぶつ喋っているのを動画で盗撮されて、ネット上に晒され、話題になっているのだ。
なぜこのようなことが起きているのかと言うと、彼が面白いからだ。西郷隆盛のような見た目のインパクトが強く、喋る内容も独特の語彙と力強さに満ちあふれていて、それが面白さに繋がっている。

電車の中で独り言をつぶやく知的障害者、あるいは統合失調症の方は多くいるし、日常的に見かけるものだが、「性の喜びおじさん」は一線を画した面白さがある。

性の喜びおじさん動画は、2つ目、3つ目と、次々と新しい作品が発掘され、それがまた「性の喜びを知りやがっておじさん」感に溢れた内容で、圧倒的なカリスマ性を持っているのだ。その全文を引用する。

性の喜びを知りやがっておじさんが喋った言葉の全文

「性の喜びを知りやがって」の全文

性の喜びを知りやがって!お前許さんぞ!
性の喜びを知りやがって自分たちばっかし、俺にもさせろよ!グギィィィ!…セックス…
コノヤロー…許さんぞ…自分ばかりしやがってよ…コノヤロー…
許さんぞこういうことは!

人の自由を剥奪しやがって。 性愛の自由を剥奪しやがって。
許 さ ん ぞ !

そして今度は何だ?女に相手にされんのだったら、ホモに転向しろかよ。バカじゃねえか?
ホモとかレズってのはいつも言うようにな、生まれた時から、性同一障害っていう、障害者なんだよ。
異性を愛せないという、病気なんだよ。なんで俺がそんな病気になると思う。
俺は女大好きだよ!何言ってんだ。あっ血が出てきちゃった…
チキショー…そんなに変なこと、出来るわけないだろう!チッキショー…

近頃はもうそういう風俗呼ばないと寝られんくなったじゃないかぁ。病気になったよ完全に。
不眠症なんだよ。女性の裸見ないとどうにかなるんだよ頭が。
そんなグラドルのな、あんな写真なんかで、おっさんが満足出来るか。
小学生じゃあるまいし、グラドルのやつなんかで。チクショウ。
何がグラドルの写真だよ。バカじゃねえのか…。
いい歳こいたおっさんがグラドルの、そんな若い子見て興奮するわけないだろ。馬鹿馬鹿しい。
いい加減にしろよ。グラドルですって、馬鹿にしてるよ。チッ…くっそぉ…

自分たち、お前たちには当たり前のこと俺はやっとらんのだ!ふざけんなよ。
週末には彼氏彼女の部屋に泊まりに行くくせに。Weekend Loverの癖に。冗談じゃないよ!
そして、そのWeekend Loverのために色んなことをするんだろ。「ああでもないこうでもない」って。クソ…。
あんなことこんなこと、ドラえもんみたいにヤっとんだろ。あんなことこんなことヤっとんだろお前。
「あんなこといいな こんなこといいな」って言いながら、Loversやっとんだろ。Weekend Loverで。
んで月曜日の、Mondayに、そ、そ、そういうの、やったから、元気が出るんだろ!

「諦めませんするまでは」の全文

許さんぞ、エロガッパ!エロエロガッパ、エロガッパァ!
許さんッ!この野郎!去れ!なんで俺が金を払ってないだと!ふざけるな!
ガァー、アァッー、ガッハぁ!オエッ!!うるさいなぁ…許さんぞ!
「させん」か…諦めん!諦めません、するまでは!

諦めません、するまでは!戦争中、「諦めません勝つまでは」と一緒だよ。
諦めません、するまでは!「諦めません勝つまでは」のパクリだよ。
戦争中言ってた、「諦めません勝つまでは」の。諦めません、するまでは!
見るなオカマ!お前は関係ないんだよッ!二丁目行け!カマが、カマカマカマカマ!
許さん。許さん!絶対する!するッ! Do it!! Do it, make love!! するぅッ!
ふざけるなよ、二十何年間してないんだぞこっちは恋愛!冗談じゃない!
馬鹿にすんな。本能だ!飯食うのと一緒だろ、オスとしての。ア゜っ!

この野郎…許さん…俺のせいにしやがって。俺がこうなったの誰のせいか!
人のせいにすんなお前よ、俺のせいにばっかしやがって。どっちでもいいんだよ!

汚ねえ…汚ねえことしやがって…諦めんぞ!するまでは!
絶対するぅ! Do it, make love!
うるさい!! Do it, make love! ペッ!
する! Do it, make love だ。

「死ねメガネザル」の全文

なんか言うことあるだろメガネザル。死ねメガネザル!

モンキーハウスに送り、送り込むぞモンキーハウスに。 ZOO! LET'S GO ZOO!

動物園へ放り込むぞ。モンキーハウスに。LET'S GO ZOO! GO GO ZOO! …クソガキこの野郎!

なんか写メ撮ってる。気持ちわる…気持ちわる!

「猿芝居の猿」の全文

猿芝居の猿!猿回しの言う通りだ。猿回しの言う通り、猿芝居!
見たくないんだよ猿芝居なんかよ!自分で考えて行動しろよ、猿芝居の猿。
サル~、去れ~♪ グヘヘッ(笑)、猿芝居の猿、去れ~♪ ウッヒッ!
猿芝居は去れ!憎たらしい!去れぇ~エヘェッヘェ!!(咳)
猿芝居の猿…。猿!消えろ!消えなさいあんたぁ…。

性の喜びを知りやがってとは (セイノヨロコビヲシリヤガッテとは) [単語記事] - ニコニコ大百科より引用)

自分の彼女に優しいのは当たり前だろ(若者と談笑)の全文

普通さ、自分の彼女に優しいのは当たり前だろ
自分の彼女に優しくないやつがおかしいんだよ!
男の人は優しいのが好きぃ?普通自分の彼女に優しいのが当たり前だ
何言っとんだよ
(若者「コーヒーいらない?」)
いらないいらない コーヒー嫌いだもん
俺がなぜ悪いんだよ 俺悪くないのに
(若者「やってやるぞお!(脅し)」)
いやんなるわもう 普通君たちは彼女に優しいわな
(若者「優しいっす」)
何が優しい人だよ みんな彼女に優しいよな
だからね、自分の彼氏になる人は、自分だけじゃなくて、いわゆるほら、おじいちゃんおばあちゃん、ね!いろんな人に、その…優しい人がいいんだよ。そんなやつはいないよ!
中にはいるよ数は少ないけど!全ての人に優しい人なんて、そんなやつはいないよ。
いやそらそうだろ!自分の彼女に優しいのは当たり前のことだから
全ての人に優しい人、なんだそれは?

性の喜びおじさんの問題提起

圧倒的な語彙力とリズム感、見た目のユニークさも相まって、性の喜びおじさんがこれからも語り継がれるネット暗部のキャラクターになってしまったことは、もはや止めようがない。
ここまで広がってしまえば、悪ふざけのように写真や動画を撮って晒す人が後を絶たないだろうし、もはや性の喜びおじさんが忘れ去られることは不可能に近い。

当然ながらここで問題になるのは、性の喜びおじさんの動画を撮って投稿するのは、肖像権の侵害であり、法律以前に、当たり前の人間としての大切な権利を毀損するような行為だと言うことだ。

現実的な問題として、道行く人を撮影してネットに晒し上げる行為が、すぐ刑事罰として裁かれるわけではない。(日本の場合は女性問題にはデリケートだから、男性が女性を撮影した場合のみすぐに逮捕されるが。)
名誉毀損で裁判をするというのもあるのだが、裁判は多くの人が考えているよりもずっと金と手間がかかり、この種の新しいネット関係の問題は現実的な手段にはなりにくい。特に一般人の私的な問題ともなると。


ニコニコ動画の大百科には

この男性は一体なぜ電車に乗りながら一人でこのようなことを話し続けるのか。このことについては各所で議論が繰り広げられているが、この行動が統合失調症の陽性症状によるものだという説は特に有力である。それによると、この男性は被害妄想や注察妄想などによって「見張られたり悪口を言われたりしている」という意識を持っており、理性や知性を持って明確な理論を立てることはできるものの(ただし薬の副作用や陰性症状による例外もある)、そういった理性自体が妄想に向けられてしまうためこのような言動を取るという。また、発言内容から察するに、注察妄想によって性欲が発散できていないという恐れもある。

とあり、また「togetter」のようなメディアでも、一般人男性が盗撮され、ネット上で玩具にされるような行為に疑問が噴出している。
インターネットは、誰もが集団イジメ、集団リンチに加担しやすいアーキテクチャになっており、「赤信号皆で渡れば怖くない」と言ったように、誰もが気軽に差別発言などを繰り返してしまう。

例えば「左足壊死ニキ(画像は貼らない)」のような方の写真を撮って盛り上がる行為も、ネットならではのものだ。2ちゃんねるなどで彼を馬鹿にする人が、普段から差別発言などを繰り返しているわけではないと思う。
それでも、インターネットという匿名性と無責任が担保された場所があるからこそ、集団イジメがヒートアップし、一人一人がそれに加担している意識もないまま、その熱が広がっていくのだろう。

ネットの闇の犠牲になった唐澤貴洋弁護士の事例

インターネットにどれだけ闇と理不尽が広がっているのかは、おそらく日本でもっともネットの犠牲になった人物である唐澤貴洋弁護士の事例を見るとわかる。

私は、ウェブメディアの仕事の同僚からその話を聴き、こんなことが平然と行われているのかと、驚愕する思いだった。
唐澤貴洋弁護士は、あるネットで下手をこいてしまった高校生の弁護を頼まれ、それに尽力した。相手は匿名の、無数の2ちゃんねるの集団であり、唐澤貴洋氏自身にも色々落ち度があって、結果的に彼はインターネットの暗部から報復を受け続けることになる。

最近、このような番組を偶然見た。動画がYouTubeにアップロードされていたので、参考にリンクする。

彼は、自分たちに悪ふざけのために、唐澤貴洋氏の名義で犯罪予告などを繰り返し、墓石にいたずらをするという非人道的なことまでやっている。私はこの動画を見て、怒りに心が震えた。

弁護士になるのは並大抵のことではない。東大の法学部に入ることができても、弁護士試験には合格しなかった同級生を何人か知っている。
唐澤氏は慶應の出身であり、大学受験には失敗したのかもしれないが、結果的に弁護士になったのだから大したものである。もちろん、慶應と言っても、何の努力も無しに入れるところではないだろう。

弁護士にまでなった唐澤氏が、インターネットの有象無象共に、好きなようにやられるというのは気分が悪い。というより、弁護士という社会的に高い地位にあるからこそ、匿名の悪意の対象になるのかもしれない。


私の予想では、唐澤貴洋氏に関する何らかの書き込みを繰り返す人も、最初は「面白さ」に引かれてやってきたのではないか。
誰かを傷つけようとするか、みたいな話ではなく、唐澤貴洋氏のあの特徴的なイラストや、ネットに強い弁護士とPRしながらもネットに疎いところなどが、単純に面白かったのではないか。

しかし、そのような面白がる行為は往々にしてエスカレートしてしまうことを心に留めなければならない。
過激になっていった結果が、「爆破予告」によって逮捕された元大学生の安藤良太被告のような例だ。
人を馬鹿にし、笑いものにする回路が出来上がると、それは自分の中で増幅し、どういう結果を引き起こしてしまうのかわからなくなる。
それが、唐澤貴洋氏の事例から言える教訓であると思う。

「性の喜びおじさん」や「唐澤貴洋」のような事件をなくすには

これは、結論から言うと、無理だと私は考えている。
ネットはIPアドレスがあるから個人が特定される、という人もいるが、実際は少しリテラシーがある人物なら、ほぼ完全に身元を隠した上で、誰かに情報を送ることができる。ネットの匿名空間が無法地帯になってしまうのは避けられないだろう。
犯罪予告などは警察も動くし、対処しやすいのだが、個人の誹謗中傷はどうしようもない。

中国のような国は検閲が厳しいが、それは政府に対する言論だけであって、中国人のネット叩きは日本以上に怖ろしいものがあるそうだ。アイドルや歌手が、ネットの誹謗中傷の工作にあって自殺する例が多いことも、中国に務めている友人から聞いて知った。

ネットの集団リンチは、何も日本人だけの特徴というわけではなく、ネットというアーキテクチャが人間にもたらす闇の側面の一つだ。これは、何らかの規制などで対処できる問題ではない。
残念ながら、唐澤貴洋や性の喜びおじさんが晒され続け、玩具にされ続ける現状をやめさせることは、何らかの抜本的な改革が起こらない限りは……難しい。

ニコニコ動画の「野獣先輩」の事例

ネット民の玩具になった事例の一つに、「野獣先輩」という方がいる。これは、なんというか……私もよく理解していないが、稀有な時代なのだ。
「野獣先輩」は、たしかに玩具のように、動画のMAD素材などに使われ、馬鹿にされているのだが、一方で、何かよくわからない尊敬のようなものを集めてもいるのだ。

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(恐縮ながら私も画像を貼らせていただく)

野獣先輩は、とあるビデオに出演した人物なのが、SNSで何らかの発言をしたわけでもなく、現在も姿を見せていない。
説明できないがカリスマ性を持っている人物であり、あるいは本当の教祖的な素質を持った人間は彼のような人なのかもしれない。

野獣先輩とは (ヤジュウセンパイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

ニコニコ大百科などには、特に名言だとも思えないセリフ集が経典のようにまとめられていたりする。

「野獣先輩」なる人物は、玩具として使われているには違いなく、どこかに居るであろう生身の本人を忖度して思い余るものがあるが、妙な尊敬と優しさを持って迎え入れられていることも、一方の事実ではある。


以前、「大島薫」という作家・タレントが、探偵をつかって野獣先輩を突き止めようという企画を実施し、大炎上したことがあった。この一連の騒動を見て、私は野獣先輩が、嘲笑でも侮蔑でもない、愛のような眼差しを多くの人から向けられていることを知った。

これは、インターネット文化に詳しい仕事仲間から聴いたことで、真偽は定かではないのだが、野獣先輩はネットの動画投稿におけるある連帯の象徴になっているそうだ。
最近はYouTuberやらゲーム実況やらが流行し、個人がタレントのようなことをしている。初期は、動画そのものの面白さのようなものが評価されていたが、近年は、力をつけて運営側にプロデュースされるアイドル的な人間が人気を集め、面白い動画が評価される環境ではなくなってきているそうだ。

しかし、知名度のない個人でやれば見られない動画も、「野獣先輩」の名と姿を借りて投稿すれば、多くの視聴者にリーチすることができ、それが動画の質を評価する文化を担保しているそうだ。
以前「ボーカロイド出身」のアーティストなどが話題になったこともあるが、近年は「野獣先輩出身」のクリエイターが話題になっていたりするらしい。
だから、野獣先輩はインターネットの民にある種の尊敬を持たれているのである。

性の喜びおじさんとの向き合い方

要領を得ない上に長々とした文章になってしまって申し訳ない。
要点をまとめると

  • 「性の喜びを知りやがって」おじさんはたしかに面白い
  • しかし一般人の晒し上げは倫理的に許されるものではない
  • 唐澤貴洋の事例を見ても、ネットの悪ふざけはエスカレートしていく可能性がある
  • 現実的にネット上のいたずらや盛り上がりを防ぐのは不可能である
  • 野獣先輩のような優しい事例もある

私は、インターネットで誰かの誹謗中傷を言う人間も、自分が大きくなった気でいて悪ふざけをする人間も大嫌いである。
某ネットメディアで働くことによって、その種の意識が緩和されたのは、自分にとって良いことだと思うのだが、まだ嫌悪感のようなものは消えていない。
SNSでしか大きなことを言えない雑魚どもに対し、私も性の喜びおじさんよろしく「許さんぞ!」と怒鳴りたくなることもある。

しかし、これは野獣先輩に教わったことだが、ネットの盛り上がりが、ただ誰かを馬鹿にするだけのものではないことも知っている。

「性の喜びを知りやがって」おじさんの動画を見て笑う人達……せめてそこに、いくばくかの優しさを持ち寄ってくれ。